マドンナリリーの花言葉

パウラは子爵へと驚きの視線を向ける。子爵は舌打ちをし、パウラを睨みつけた。


「九年前のドーレ男爵とクレムラート伯爵の事件にも疑問はある。あの日、クレムラート伯爵は北の別荘地にいたそうじゃないか」


クラウスの問いかけにフリードが、「ええ。祖母にはそう言って出ていったと」と応じる。


「しかし彼は愛人と一緒にドーレ男爵領の近くまで戻って来ていた。なぜか。記録を見ても分からなかった。分かったのは、双方の馬車がとても急いでいたということと、クレムラート家の馬車の中で唯一生き残った“愛人”が『伯爵との逢瀬だった』との発言だけを残してその後姿を消してしまったことだけだ」

「ええ。クラウス様にそこを指摘されて、取り急ぎ調べ直しました」


フリードは、胸ポケットから報告書を取り出す。
あの頃、フリードは先々代の事故について調べる権限など持っていなかった。フリードの父親は凡庸な人物で、上がってくる報告をそのまま鵜呑みにしていたのだ。

しかし、今回の件を受け、いやいやながらも祖母と連絡を取った。今その北の別荘地にはフリードの祖母、亡くなった先々代の妻が住んでいるのだ。


「祖母によると、当時別荘地を管理していた男はその後すぐ辞めたそうです。名前はヤン=アウラー。近くの街を中心に聞き込みをして分かったことは、彼がその後急に羽振りが良くなり、それを使い切ったころから姿をくらましたということだけ。彼の足跡をたどるのはそう難しくはありませんでした。借金の取り立てで色々な店の店主が彼の行方を追っていたので」

「そう。そしてその男は意外なところに居た」


クラウスは芝居がかった動きで窓のほうに手を向ける。
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