マドンナリリーの花言葉
薄気味悪いシナリオを即興で考える子爵にローゼの恐怖心は最高潮にきていた。足が震え、涙がぼろぼろこぼれていく。心の中で何度もディルクの名前を呼んだが、口が押えられているため言葉にはならない。
ディルクは既に立っているのもやっとな様子のローゼに、気が気じゃない。早く救い出し、もう大丈夫だと言ってやりたかった。
「旦那様」
戻ってきたゾフィーは用心棒と思しき剣士を三名連れていた。屋敷の中だというのに上半身を守る鎖帷子に胸当て、腕にはこて、足には膝当てと防具が整えられている。そして極めつけは、切れ味を誇るように鈍い光を放つ片手剣だ。ゾフィーは足手まといになるのを恐れてすぐ下がっていく。
屈強そうな男たちのに、フリードとディルクは唇を噛みしめたが、クラウスは冷やかすように唇を鳴らす。
「へぇ、君の用心棒かい? 大きな口を叩いておいて、自分ではなにもしないんだな」
「私はもう老人だよ。力よりも頭脳で戦う。……やれっ」
その合図を皮切りに、剣士たちは剣を振り上げた。フリードとディルクとクラウスも脇に差していた短剣を抜く。しかしながら「動くなっ」という子爵の声に動きを止めた。
「君たちに抵抗は許さないよ。剣を捨てろ。でないとこの娘がどうなると思う?」
ローゼの髪を一筋、ナイフで切り取る。ピンクブロンドが床に落ち、ローゼからは「ひっ」と引きつった声がでた。
「卑怯だぞ、やめろ」
「これは妥当な交渉だ。さあ、娘に傷をつけたくないなら剣を捨てろ。こんな美しい娘だ。死なすのは惜しいだろう?」