マドンナリリーの花言葉

目深にかぶった頭巾から見える瞳に、何らかの作為を感じ取らないわけではなかったが、誘いはそれなりに魅力的だった。

父を憎んでいた。母や自分たちを裏切り、若い他人の後妻にうつつを抜かして家を滅ぼしたのだ。
だけど、裏切ってなかったのなら?

今更爵位を取り戻したいとは思っていない。だけど、汚名はぬぐい取りたかった。無念のうちに死んだ、母や妹のためにも。


『いいだろう。俺は毎月十五日にここに来る。まあ天気によっては変動するが』

『助かります。ではその時にお会いできるように、手をうってみますわね』


ゾフィーは含み笑いをし、去っていった。
パウラ夫人は、見えているわけでもないのだろうに、窓に顔を張り付けるようにして外を覗き込んでいた。


その後、ディルクは屋敷に戻り、当時を知る者たちから話をきいたり、文書を漁ったりして九年前の出来事とアンドロシュ子爵についての手がかりを集めた。

しかし、当時に知りえたこと以上のことは分からなかった。

アンドロシュ子爵はあまり評判のいい人物ではなかった。
継承戦争の英雄の家系ということで一目置かれてはいるが、現当主にはあまり才覚はなく、過去の財産を元金として金貸し業をしながら維持している。

前妻との間に息子がひとり。ドーレ男爵はこの子息と交友があり、屋敷を訪問することがあったらしい。

パウラ夫人はその息子よりも十二歳も若く、『借金のかたに売られてきた』とか、『財産目当てで老人をたぶらかした』とか穏やかではない噂がささやかれている。

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