マドンナリリーの花言葉
「……あなたは、おいくつになられましたか?」
ディルクの問いかけに、パウラは小さく首をかしげる。
「いくつ? ああ、私の年? ええと、二十……えーと、いくつだったかしら。ねぇゾフィー?」
傍らに控えていた侍女のゾフィーが口角を緩く上げて答えた。
「三十三歳でございますよ」
「あら、そんなになっていたかしら。すっかりおばさんね。恥ずかしいわ」
「そんなことはありませんよ」
父はいくつだっただろう、とディルクは思いを馳せた。生きていればたしか四十三歳。九年前の死亡時は三十四歳だったはずだ。十歳という年齢差は微妙だ。恋愛対象外になる人もいれば、恋愛対象になる人もいる。
「……変わらずお綺麗です」
歯の浮くようなセリフが飛び出し、ディルクは自分でも意外に思う。
最近、こんなことが多い気がする。気を持たせるのはよくないと分かっていて、ローゼをついついからかってしまうのだ。
(……ローゼに似ているからかな。うっかりこんなことを言ってしまうのは)
「……あの夜のことを覚えていますか?」
ディルクの問いかけに、ハッと息を飲んだのは侍女のゾフィーのほうだ。パウラは小首を傾げ夢の中にいるような様子で問いかける。
「あの夜とは?」
「あなたが目を怪我したときのことです」
パウラはぼんやりとした雰囲気はそのままに、少しだけ表情を曇らせた。
「よくは覚えていません。痛かったことだけ覚えていますわ。たしか……どこか遠くに行こう……と言いましたわよね。それで私、あなたと一緒に馬車へと乗ったのではなかったかしら。あの家を出たくて……」
「パウラ……」