純粋乙女の恋物語
「おはよう、早苗ちゃん」


教室に入ると、長い三つ編みを揺らす綺麗な女の子が私に声を掛けた。


「おはよう、梅子ちゃん」


梅子ちゃんは仲のいいクラスメイトだ。
彼女も例に漏れずお嬢様で、大きな貿易会社の娘さんだ。


「あのね、早苗ちゃん」

「どうしたの?」

「さっきね、三年生の藤原先輩がこのクラスに来てね、早苗ちゃんに伝えてくれって頼まれたの」


藤原先輩もとい藤原愛子(ふじわら あいこ)さんは、誰もが憧れる学校きっての才媛だ。
確か大企業の令嬢だったはず。


「私に……?」

「昼休み、中庭の桜の木の下で待ってますって」

「行かなきゃだめよねぇ」

「藤原先輩の呼び出しを反故(ほご)にしたら、この学校で生きていけないわよ」

「そうよね」


一体私に何の用があるのだろう。


その日の午前の授業は、緊張のあまり身が入らなかった。



それからどうにか授業を終えて、指定された中庭へ急ぐ。


中庭に辿り着くと、すっかり葉桜になった木の下に、桜の精と見紛う可憐で美しい女子が佇んでいた。
彼女が藤原先輩だ。


「お待たせしてすみません」


藤原先輩は私の声に気付くと、ゆっくりと振り返り柔和な笑みを浮かべた。


「大丈夫よ。私こそ急に呼び出してごめんなさいね」

「いえ」


藤原先輩は校内きっての令嬢だけれど、偉ぶることはなくとても謙虚な方だ。


「あの、お話というのは……」


私が尋ねると、藤原先輩はセーラー服のポケットから一通の封筒を取り出した。


「早苗さんにお願いがあるの――――」
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