純粋乙女の恋物語
あれから数日が過ぎ、待ち侘びた休日がやって来た。


真新しいのワンピースに身を包み、普段下ろしている胸まで伸びた黒髪を淡いピンクのリボンで結わえた。


しかし、折角のお兄さまとのお出掛けだと言うのに、私は上の空だった。


なぜなら、先日、藤原先輩がお兄さまへの恋文を私に託したからだ。


これを渡したら、お兄さまは藤原先輩を選んでしまうのかしら。


藤原先輩は断トツで美しくて器量も良いから。


反故してしまいたい、しかし、藤原先輩の信用を失うのも怖い。
私はここ数日その板挟みに心の中で苦しみあえいだ。


「早苗ちゃん、ぼんやりしてどうかしたのかい?」


車で移動中、お兄さまは私の顔を不安げに覗き込んだ。


だめ、心配させてはいけない。


「ううん、今日が楽しみで眠れなかっただけよ」

「それならいいけど、身体が辛くなったらすぐに僕に言うように」


にこりと微笑みながら頷くと、お兄さまはそれ以上追求してこなかった。


銀座の百貨店に到着すると、お兄さまは真っ先に婦人服のフロアへ連れて行ってくれた。


「このブラウスは、早苗ちゃんに似合いそうだよ」


男性がこのフロアにいるなんて恥ずかしいだろうに、私に似合いそうなお洋服を一生懸命探してくれた。


「ど、どう?」

「似合うよ。とても可愛いね」


ブラウスを受け取って合わせてみると、満面の笑みを浮かべた。


その笑顔をいつか他の女性に向けると思うと、胸が痛い……。
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