ハニー♡トースト


届かない。この人には、私の声も、朔弥の声ですら。


「君は明日から別の仕事をやってもらう。朔弥のそばを離れても、それでも君はここに留まり続けるか?」


そう言って、社長は万年筆を取る。まるで何事もなかったかのように仕事を再開した。


「…失礼します」


私は深く頭を下げて、部屋を出る。


最後まで、私の姿は彼の目には映らなかった。


「あ、れ…」


頬を熱い液体が流れ落ちる。一筋、また一筋と流れて首を伝う。


涙が止まらなかった。漠然とした恐怖に、不安に。言われたのだ、ここを出て行けと。朔弥の側にいてはいけないと。


私と彼の間には、計り知れない溝がある。


「…桜田さん?」

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