イジワル上司の甘い毒牙
「あ、おはよう。諭吉」
カタン、と物音がして即座に日高さんがそちらを向いて挨拶をするので、何かと思って見ると純白の毛並みの猫がこちらを見て少し警戒するように尻尾を揺らしていた。
「諭吉!?」
「え?うん、諭吉。可愛いでしょ?」
甘えた声を上げながら、私を避けるようにして猫が日高さんの足元にやってくる。
独特なネーミングセンスに驚いていると、日高さんがしゃがみ込んで猫を抱き上げた。
「普通、猫にそんな名前つけないでしょってみんな言ってくるんだ。そういう反応が欲しくて、諭吉って名前にしちゃった」
なんて言いながら、日高さんは猫の鼻に自分の鼻をくっつけた。
猫は嬉しそうにまた鳴いて、日高さんの手をすり抜けてその足に身体を擦り付けるようにしてぐるぐると回り始めた。
「あー、ご飯ね。今あげるよ」
日高さんは猫の甘えた声に応えるように、甘く柔らかい声でそう答えた。
「えっ、ちょっと日高さ」
日高さんが再び猫を抱き上げたかと思うと私に押し付けてくるから、咄嗟に猫を受け止める。