イジワル上司の甘い毒牙
「佐倉さん、家そんなに遠かった?」
「……電車で二十分くらいかかります」
「あー……」
電車が無ければとても帰れる距離ではないし、歩ける範囲だったとしてもこの暴風雨の中、進める気がしない。
「そうだな……車、出そうか?」
「え!危ないですよ!」
何が飛んでくるかわからないこの台風の中、車で長距離を走るなんてとんでもない。
それは日高さんも同じように思っていたらしく、だよね、と肩を竦めた。
それから顎に手を当ててしばらく考え込んだ様子を見せてから、日高さんは打開策を思い付いたように目を瞬かせて、私を見下ろした。
「俺の家に泊まっていく?」
「えっ……」
露骨に顔を顰めてしまった。
その反応を予想していたのか、日高さんは口元に手を当てて、小さく吹き出した。