イジワル上司の甘い毒牙
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「やっと着いたね……」
扉が閉まる音を背後に聞きながら、日高さんはげんなりした様子で、重たい口を開いた。
暴風に煽られたせいで差していた傘は折れて、痛いくらいの勢いで降り注ぐ雨によって、頭の先から爪先までがずぶ濡れになってしまった。
家主が家に上がったのを後から見届けてから、パンプスを脱いで床に足を付ければ、靴下が嫌な音を立てた。
あとで廊下も拭かなきゃいけないのはもちろんだけど、靴もどうにかしないと明日、地獄を見ることになる。
「あー、ほんと最悪。こんなことならもっと早くに帰宅命令出しておけば良かった」
リビングに入って開口一番、日高さんはそう悪態づいて舌打ちをした。
日高さんでもそんなふうに言葉を乱すことがあるんだなあ、と驚くのと同時に、初めて出会った時のことを思い出す。
日高さんは意外と口が悪い。
いや、意外と、と言うよりも、たぶん職場では完璧に負の部分を隠しているだけだ。