イジワル上司の甘い毒牙
「全員が帰ったのを確認しないと、日高さんは帰れませんもんね……」
問題が起きた時、会社全体に判断や指示を下すのはほとんど日高さんだ。つまり、責任も日高さんにあるということ。
「何かあったら困るからね。まあ、実際見回ってなかったら、佐倉さんは会社で寝ることになってたわけだけど」
「うっ……ありがとうございます」
「いえいえ」
雨水を吸って重たくなったコートを脱ぐ時、一瞬だけ鬱陶しそうに眉をしかめた日高さんは、私が見つめていることに気付いて、なに?と微笑んだ。
「私、着替え持ってないんですけど……」
重大な問題にたった今気が付いて、私は口元を引きつらせた。
買いに行こうにも、この雨の中では無理だ。