イジワル上司の甘い毒牙

「全員が帰ったのを確認しないと、日高さんは帰れませんもんね……」


問題が起きた時、会社全体に判断や指示を下すのはほとんど日高さんだ。つまり、責任も日高さんにあるということ。


「何かあったら困るからね。まあ、実際見回ってなかったら、佐倉さんは会社で寝ることになってたわけだけど」

「うっ……ありがとうございます」

「いえいえ」


雨水を吸って重たくなったコートを脱ぐ時、一瞬だけ鬱陶しそうに眉をしかめた日高さんは、私が見つめていることに気付いて、なに?と微笑んだ。


「私、着替え持ってないんですけど……」


重大な問題にたった今気が付いて、私は口元を引きつらせた。

買いに行こうにも、この雨の中では無理だ。

< 70 / 107 >

この作品をシェア

pagetop