唯少女論
唯少女論 プロローグ
 ねえ、アナタは憶えていますか?



あの夏の日のこと。



アナタがいなければ、私はきっとここに立ってはいられなかった。



アナタは私にとって、光。



その行き先を照らす光があったから、私はここまでやってこれた。



一人でもがんばっていられた。



もし、もう一度アナタに出会えたら何て話しかけたらいいだろう。



地元の駅で、都会の真ん中で、偶然アナタとすれ違ったら、アナタは私に気付いてくれるだろうか。



そんな奇跡なんてあるはずもないのに、ついつい考えてしまっていた。



だから、だからこそ、視線の先にいるのがアナタだとは信じられなかった。



奇跡は私のような地味で目立たない人間には起きたりしない。



だから、ただキレイな女の子がいるなと思っていた。



大学のキャンパスを歩く女子の集団の中で一際《ひときわ》目を引く背の高い女の子。



誰もが美人だと思う顔立ちに薄っすらとメイクをしたその子は、凛《りん》としたところがアナタに似ている。




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