唯少女論
「わもかちゃん。わもかちゃんの好きなことって、何?」



フルーツを前に置いて絵を描いている彼女の隣でアタシは同じように絵を描いていた。



同じように、というのは彼女に失礼か。



彼女の絵は繊細で儚《はかな》くて美しい。



あれからアタシはほぼ毎日この美術室でサボっている。



アタシ達以外は三人のグループが好きなアニメの話で盛り上がっていた。



「絵を描くことかな」



あの子達も美術部員だ。



美術部は陸上部よりもだいぶ緩い。



来るも来ないも自由だし、来ても強制されることはない。



「強制されたら絵が描けなくなりそう」



彼女は笑う。



「描けなくなったら困るな。わもかちゃんとこうしてるの楽しいし」



おしゃべりだけじゃなくて、何も話さない時間、真剣な彼女の表情を見られることがうれしい。



「うん。楽しいね」



できるならこのまま二人でここにいられたらと、できもしないことを思っている。



卒アル係りを理由にするのも限界か。



毎日毎日アタシ達を走らせて何が楽しいのか。



陸上部の顧問、脳ミソまで筋肉じゃないのか。



「反復練習は大事だよ」



彼女はツボに入ったみたいで笑いをこらえながら言った。



「絵だってこうやって毎日クロッキー描いてたら上手くなると思うよ。走ることだってそうでしょ?」



アタシは彼女の絵をのぞき込む。



教科書のお手本のような線画は繊細さが寄り集まっているのに、そこにあるモノクロの果物からは瑞々しさが伝わってくる。

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