唯少女論
唯少女論 第1話 「君に名前をたずねる」
 七月の青い空。



「それは、幻」



朝の太陽の匂いを運ぶ風。



「回る回る自転車の車輪」



土を蹴る音。



「リズムよくすれ違う足と足」



光を乱反射させる水しぶき。



「風と一緒に君を追い越す」



地面に染み込んだ水の匂い。



「君の視線が見つめるアタシの背中」



誰もいない教室。



「君だけがいる教室」



アタシの好きなモノ。



「こら! 最中唯理《もなかゆいり》! 止まりなさい!」



ヘッドフォン越しにもその大きな声は聞こえた。



「………先生、おはよーございます」



「おはよう、じゃない。自転車でヘッドフォンは道交法違反。朝練に無断で遅れてくるのは校則違反」



校門前で私は陸上部の顧問の先生に呼び止められた。



「先生、もしかして待ってた?」



「待ってたよ。朝練を遅刻した理由は?」



「理由………」



そんな理由は一つしかない。




< 3 / 45 >

この作品をシェア

pagetop