唯少女論
チャイムが鳴ると担任は順番に出席を取り始める。



「小池さん、小林さん、斉藤さん、桜木さん」



彼女は名前を呼ばれると、大きくはない声でそっと返事をして、隠すように開いた文庫本に目をやる。



窓際の席から廊下側の彼女を見ていると、



「ねぇ、唯理。現国の宿題やったきた?」



前の席に座る藤田が振り向いた。



「ううん、今から。藤田やってきたなら見せてよ」



「やってるわけないじゃん。ここはやっぱり、わもかに見せてもらうしかないか」



「ねえ、わもかって桜木さんのことだよね?」



「そだよ。小学校からずっと、わもかだよ」



「何でわもかなの? てか、そもそも下の名前って何?」



「さあ? 知りたいなら自分で聞きなよ」



「えー、ケチ。菊子《きくこ》のくせに」



「菊子言うな。私のことは藤田かシャルロットと呼んで」



「なぜにシャルロット?」



「ミドルネーム」



「どこの国のヒトだよ」



「フランスと日本のハーフだよ。言わなかったっけ? んで、おばあちゃんがシャルロットと菊子」



言われれば日本人離れした顔だとは思うけど、小さい頃から周りに何人かいたのでそれほど気にはならなかった。



「日本生まれの日本育ちだから日本語しか話せないけどね」



「ふーん。それで桜木さん———わもかちゃん? とは小学校から一緒なの?」



「うん。家が近いからね。この学校に通うって言い出したのも近いからだし。ちなみに言い出したのは私ね。わもがシャルはさみしがり屋だからって。優しいでしょ?」



「二人とも家近いんだ」

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