会長代行、貴方の心を全部わたしにください
「芹沢」

会長代行は信号待ちで、私に名刺を手渡した。

「主治医の連絡先だ。そこにダイヤルすれば直接、循環器科につながる。名刺の裏に診察券のID番号も記してある」

「あの……」

「連絡することがないように、用心はする」

会長代行は私の言葉を遮り、不安を察するように、ポツリと付け加えた。

嶋津ゼネレーションに到着すると、会長代行に視線が集中した。

会長代行は弱冠20代。

端正で綺麗な顔立ちをしていて、細身でモデル顔負けの容姿だ。

那由多賞作家としても知られている。

結城コンツェルンの会長代行会見が報道されたことは、まだ記憶に新しい。

ただでさえ目立つ容姿の上に、酸素吸入をし、酸素ボンベを持ち歩いている姿はさらに、目を引くのだろう。

「可哀相に」というヒソヒソ声まで聞こえてくる。
< 9 / 115 >

この作品をシェア

pagetop