【完】無気力な幼馴染みがどうやら本気を出したみたいです。
「……考えたことないの?」
努力する意味も分かってないまま、努力していると言うのかこの男は。
「昔からそう言われてきた。鬼龍院財閥の跡取りとして、常にトップを取るべきだと」
「言われたから、やっているの?」
「そうだが?」
さも当然のように言う目の前の彼に、つい頭を抱えてしまう。
先ほど『あんな人たちに囲まれて、よく正気を保ってられるわ』と言ったのだけれど、この言葉は撤回するしかないようだ。
この男、まるで正気じゃない。
一番を取る。
努力する。
鬼龍院財閥の跡取りだから。
そこに、自分の意思なんてこれっぽっちもありはしない。
そんなふうに彼の意思さえも歪ませてしまったこの世界なんて、やっぱり、大嫌いだ。
「お互い、嫌な世界に産まれてしまったものね」
「僕はそこまで嫌ではないがな」
「つくづくいい性格してるわね、あなた」
「君が悪すぎるんだけなんじゃないか?」
…………本当にこの男は。