【完】無気力な幼馴染みがどうやら本気を出したみたいです。



「僕が王子だ! 驚いたかい近衛クン!?」


鬼龍院くんだった。正直、そうだと思った。

だけどいつもの鬼龍院くんとは違い、豪華なマントを羽織ってまさに王子様というような服装だ。


「なんだ、ちょっとリアクションが薄いんじゃないか?」

「それより、早くこの町を抜ける許可をくれない?」


彼方が素っ気なく言うと、鬼龍院くんは「ふむ、良いだろう。だがしかし!」とその場に立ち上がった。


「近衛クン、君の〝一番〟大切なものを僕にくれないか? そうしたらこの町を抜ける許可を与えよう!」

「一番、大切なもの?」

「そうだ。自分が今、一番大切だと思うものだ」



《そうして柚月ちゃんは、自分の『一番』をその王子に……》



「ごめん鬼龍院くん。一番だなんて、私には決められない」

「決められない、だと?」

「今の私にとっては全部が大切で、全部がかけがえのないもので、みんなと過ごす毎日が一番大切だから」

「毎日……だと? それじゃあ、今日よりも明日、明日よりも昨日が一番ということになるが?」

「うん、だから毎日が一番大切なの!」


困惑した表情を、鬼龍院くんは浮かべた。



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