どんな君でも愛してる。
高校生になって早くも1ヶ月。
ゴールデンウィークが始まった。
「おーい、ひろー。やっぱまる、道迷ったんよ!探し行かんと!」
俺ん家の地図を書いて渡したのだが、真冬は約束の時間から30分たっても現れなかった。
「わかった。俺、出てくる。」
すっかり5人で遊ぶようになっていた俺らは、真冬のことも昔からの友だちのようにしたっていた。
俺らの事情はまだ知らないが、ちょっとずつ知ってもらえればいい。
そう4人で話し合ったのも、もう1ヶ月前。
「まるー!!」
俺ん家大きいから、迷うことなんてほぼないと思ってたんだが……
「お、蒼太!!」
「ひろっ!」
「あ、…兄貴…と、まる??」
2人並んで、楽しそうにしている。
俺の兄、歩太と真冬が、どうして…
「なんで…一緒にいるわけ?」
「なんでって…あゆとはずっと前から仲良しだもん」
は?
ずっと前?
「意味わかんないんだけど」
女たらしの歩兄と並んでんじゃねぇよ…
こいつ、ろくな人間じゃないし…
「真冬ちゃんとは、親同士が仲良しさんでね。」
「でもあゆしか知らなかったからびっくりしたー、あゆに弟がいたなんて!しかもそれがひろって聴いてビックリしちゃった。」
「…真冬うちゃん…」
顔を合わせる2人にイライラする。
騙されてんじゃねーよ、こいつ。
「ん?」
「…蒼太が来てくれたから、もう大丈夫?」
「うん!あゆ、ありがとう!」
なにが『あゆ』だよ。
だいたい、なんでお前は……
「行くぞ。」
真冬のトランクケースを歩兄から取り、真冬の腕を引っ張る。
「お前…俺の兄貴と知り合いなわけ?」
「うん!まさかあゆがひろのお兄ちゃんだったなんてびっくりだなぁ~」
「あんさ。兄貴にもう近づかないでくんい?」
「…どうして?…あゆはいい人だよー!」
「あいつが?……兄貴は…いいやつなんかじゃないよ。あんな奴がいい奴だなんて思うわけないだろ…?」
「あんなって……どゆこと……?」
…歩くのをやめて、真冬の手を離した。
背後に感じる、真冬の気配。
…俺は……
まだ、その時小学3年生だった。
そう聞いている。
俺の記憶にあるのは、両親が死んで1年たった時から。
朝起きたら、誰もいなくて。
お母さんもお父さんも兄貴も誰もいなくて。
仏壇を見て気づいたんだ。
俺の親は、もうどこにもいないんだって。
その日、学校をサボって兄貴を待ち続けた。
でも次の日も、その次の日も兄貴は帰ってこなくて。
やっと帰ってきたと思ったら、知らない女と一緒で……
俺は許せなかった。
いつもヘラヘラして遊んでいる兄貴が。
どうしても、許せないんだ。
「ひろ、大丈夫…?」
「…………」
どこかで、聞いたことがある気がした。
真冬の声が、少し懐かしく感じる。
優しい声色、暖かい手の温度。
俺の手を握った真冬は、心配そうな顔をしていた。
なにか、言わなければ…
なにを、言えば…
「何があったか話したくなるまで、待つよ。」
「まる…」
「まぁ、それは今日じゃないみたいだからー、ゆっくり待たせてもらおっかな。」
いたずらに笑った顔が、なんだか愛おしく感じた。
「一生、話す気なかったりしてなー。」
「えっ?!その時は、武力を行使して吐かせる!」
「どこでそんな言葉習ったんだよ?」
「アニメー」
空気が一気に軽くなって、いつも通りの会話になる。
「ってか…何気、私服で会うの初めてじゃね?」
「あ、ほんとだー!」
「お前、なんかズレてるな。」
「どうゆうこと!?」
真冬は、ワンピースを着ていた。
膝下まである、ロングワンピース。
薄いピンク色がベースに、裾にはたくさんの刺繍がされている。
その上から被っているのは薄手のポンチョ。
夏らしいサンダルを履いた彼女は、おとぎ話にでも出てきそうだ。
「可愛いってこと。」
「可愛い…?」
「何ー?照れた?」
「照れてない…」
「お前、わかりやすいな!」
可愛いの一言で頬を赤くする真冬。
なんか、純粋に感じる。
子供っぽいっていうか。
「そう言うひろも。」
「え?」
「かっこいいよ。」
俺は人のこと言えないくらい顔が赤くなるのがわかった。
振り返って笑った姿が目の奥に残る。
君の笑顔に、なぜか俺は弱い。