私と結婚してください。
わがまま、か…
でもそれでも、一緒にいたいって
そんなささやかなわがまますら、聞いてはもらえないのかな…
「あの」
なにも言えなくなった伊織くんに続いて、今度は凰成が話し始めた。
「なんだ?」
「俺、希依が神楽に来るまで知らないことってたくさんあったんです。
もしかしたら頼にとって神楽はそこまで成長する機会はなかったかもしれません。
でも俺には間違いなく、なくてはならない場所でした。
希依と知り合って、いろんな常識と知りました。
頼がケガをした日、俺は生まれて電車に乗りました。
それまでも食事をしに行ったり、買い物に行ったり。
いろんなことを経験してきました。
俺は希依と出会うまで、お金の使い方も知らず、電子レンジの使い方も知らない、そんな人間だったのです」
その凰成の言葉に、さすがに頼くんのお父さんは絶句した。
「信じられますか?高3にもなって、現金の使い方すら知らなかったんですよ。
俺は、いつもいつも吉良家のご子息として生きてきました。
でも希依と出会ってからの俺はただの高校生として生きてこれた気がします。
金払って食事をしているのに、店員にありがとうという希依が不思議でした。
それなりの対価をちゃんと支払っているのに、どうして礼まで言うんだろうって不思議で仕方なかったです。
一度だけ、それを希依に聞いたことがありました。
その時希依は、言われたら嬉しいからって言ったんです。
相手の立場になって考え、自分だったら嬉しいからと考えてお礼を言う。
俺には、そんな発想なかったです。
…たぶん、希依が神楽に来ていなかったら
今ここに来ることもなかったと思います。
神楽がなくなったところで変化なんかないだろうし、俺自身が神楽に興味がなかった。
もし今神楽がなくなったとしても、希依とも絶対に会ってみせます。
そのために親を説得して、希依との接近禁止なんてどうにかしてみせます。
もし頼が学校をやめたとしても、俺は頼から離れたりしません。
今まで通り、放課後は一緒に遊ぶと思います。
…でも、頼は本当にそれを望んでいるんでしょうか。
俺が頼だったら…
いつもの頼を見てたからわかるんです。
頼は、あそこが好きなんです。
好きだからこそ、自分が辞めても守り抜きたい。
それほど大切な場所なんです。
…それなのに、神楽だけ守って頼がやめるとか
頼が学園に残るなら神楽解体とか
親として、本当にそれでいいんですか?」
凰成の長い長い話を、頼くんのおじさんはすごく真剣に聞いていた。
頼くんにとって大切な場所…
そのことだけはどうか届いて…