社長、僭越ながら申し上げます!
「はぁ…」

新しい仕事に新しい家に来て10日…

何がなんだか分からないうちに
社長の優しさに甘える感じになってしまっている

(今日も帰りは遅いのかな)

こちらの家に住まわせて頂いてから
初日以外は湊さんの帰りは12時を過ぎている

今まで社長がこんなにも忙しいだなんて

(考えてもいなかったな…)

社長は今日の仕事中、厳しい顔で対応していた

何か厳しい状況にあるのか何度も一人になると
額に手を充ててデスクで考え事をしていた

(顔色があまり良くなかったし)

社長が心配で…
食べなければ明日私が食べれば良いと
ポトフを作ってみた

もう23時半を過ぎている

リビングでカチコチと時計の音を聴きながら
会社の外部向け資料を眺めていた

かしゃん

控え目な解錠の音が聞こえて…
玄関に駆け寄ってみた

「お帰りなさい…湊さん」

湊さんは少し疲れた顔をしていた

「ただいま…あれ?起きてたの?
早く寝なきゃお肌に悪いぞ乃菊…」

「何か召し上がりますか?」

ジャケットを受け取りながら聞くと
湊さんはいつものように微笑んだ

…けれどその笑顔にやはり元気がないように見えた

「大丈夫、食欲ないんだ…もう寝るよ」

「あのっ…ゆっくり休んでくださいね」

「有り難う」

私は頭を下げてリビングの端にあるハンガーラックに湊さんのジャケットを掛けようとしたその時

「こちらこそ有り難う…」

後ろから湊さんが私を抱き締めた

「乃菊の良い薫りで…疲れも吹っ飛びそうだよ」

きゅっとお腹の辺りに手を回され…
首筋に湊さんの息が当たる

背中に湊さんの身体がしっかりと密着したため

(男性なんだよね…)

と、逞しい身体を直に感じて…

恥ずかしさに心臓がバクバクしている

(し、静まれ心臓!)

「お役にたてて良かった…です…」

やっとのことで言葉を呟き、離れようとしたが

湊さんは私を離さなかった

「乃菊……もう少しこのままでいて」

「え、あ、はい…私でよければいつまでもどうぞ……」

「いつまでも?」

湊さんが指で私の頬に優しく触れて
何度も擦る

後ろから抱きつかれているので表情は
見られない……

「じゃあ、一生ね?ずーっと…」

「僭越ながら……そ、そ、それは如何なものかと」

まるでプロポーズみたいですよそれじゃ!

私は慌てて否定した

「ここにいる間はいつまでもいいです」

「ふうん……分かった」


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