ねぇ、顔を見せてよ
(あ、スマホで地図…)

慌ててスマートフォンを出そうとしたら
鞄から落としてしまう

「あぁぁ…」

かしゃん

落下音が妙に軽く耳に届いた

拾いあげ、確認すると…
ロック画面に伏見くんの笑顔が見える

「これでオレがいつでも見られるでしょ?」

ニコニコにしながら
そんな風に言って自分の画像を
勝手に設定していたっけ

(伏見くん…)

あんな綺麗な人が居たんじゃ
私の出る幕はないけど…それにしても

「二番目ならそう言ってくれればいいのに」

思わず恨み言を口にしてしまう

確認すると駅とは反対側に来てしまったようなので
ゆっくりと地図を確認しながら駅を目指す


ところが

「いつまで経っても駅がないー!!」

気づかなかったけど

(私って方向音痴だったんだ…)

スマホのアプリが先ほどから虚しく矢印を換えているのに、ちっとも方向が分からない

暗い街を泣きそうになりながら歩いていると
美味しそうなパンの香りがしてきた

(いいかおり…)

フラフラと匂いにつられて行くと

ログハウスで木の香りがするお店にたどり着いた

「わぁ…」

柔らかい光に包まれた店内に入ると
「いらっしゃいませ!」と
明るい声がする

閉店が近いのか
商品は殆ど残っていなかったけれど
お腹が空いていたので
棚にあったツナとチーズのパンをトングで手にした

レジに持っていくと
目が大きくて華奢な女性が対応してくれた

「いらっしゃいませ…お持ち帰りですか?」

「あ、食べられるんですか?でも時間が…」

閉店が近そうなので悩むと

「大丈夫ですよ?飲み物もありますから
どうぞ召し上がって行ってください!」

「有り難うございます」

お金を払いイートインコーナーに座ると
お姉さんが何やら中に声を掛けていた

そして2分位あとに温められたパンと
珈琲が出てきた

「どうぞ…」

「うわぁ!美味しそう!
…あれ?チーズが増えているような?」

見るとトングで取った時よりも多めの
溢れるようなチーズが美味しそうに
グツグツとしていた

「初来店記念です。
ふふ美人さんにサービスしちゃいます」

「え…わ、あぁぁ、有り難うございます!」

優しさに何だか涙ぐみそうになると
…スッとお姉さんが正面に座った

「何か話して楽になるなら聞きますよ?
…そんな真っ赤なおメメ…似合わないかなって
お節介してもいいかしら?」

お姉さんは優しく微笑んだので
私は涙腺が緩んでしまった








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