ねぇ、顔を見せてよ
金曜日…

「紅子ーあぁ可愛いなぁ」

「あの…伏見くん……ちょ…」

まとわりつくように私にくっつく伏見くんの腕をほどきながら

伏見くんの住むマンションのエントランスを進む

エレベーターがくれば、扉を開いて
ササッと手を腰に手を添えてエスコートしてくれ
扉が閉まると同時に唇を押し当てられた

「ん…っ…」

「フフフ…可愛すぎて食べちゃいたい」

そんな風に伏見くんは言う

でも…

(手を出されずに…2ヶ月…)

私は地味な性格と見た目
身体だってお世辞にも良いスタイルとは言えない

身長も小さいしゴツゴツと骨張る身体

細いと言えば聞こえは良いが胸もないし
…色気が無さすぎる

おまけにドジばかりで何度も

「あぁぁぁ!」って叫んでしまう…

どうして私を伏見くんが選んでくれたのか分からない

「紅子は可愛いよ?大好きだよ…」

伏見くんはそう言ってくれるけど…まだ彼女という実感はない

…求められないから?

玄関入り、靴を脱いでいると

「げ…」

先に入った伏見くんが呟いた

(ん?)

「お帰り、巧…」

そこに居たのは綺麗な女の子

「何しに来たんだよ」

「何しにって…このバカモノ!
まだ女の子引っかけて連れ帰ってるわけ?
この子なんて見るからに処女じゃないのよ!
あんた節操無いの?!」

「しょ…じょ…」

(ひ、否定は出来ないけれども…)

「ばっ…か…いいから帰れ!…紅子、気にしないで上がって?」

「私が気にするわ!ふざけないでよ巧!」

気にしないでと言われても…
本命の彼女がいたなんて…

仁王立ちする女の子と言い争いしている
伏見くんに頭を下げて…

「じゃあ…あの、伏見くん…私…帰るね?」

急いで扉を閉めて
マンションのエレベーターがちょうど来たので
飛び乗って下へ降りる

(帰らなきゃ…)

やっぱりそうだったのか…
だから手を出されなかったんだと納得した

(私なんかが…伏見くんの彼女になれる筈なかったんだ)

マンションを飛び出してから駅へ向かって走った

涙で目の前が見えなくて
滴がボタボタと服に落ちていく

徒歩10分かからないからもう着いて良いはずが
気づけば知らない街並み…

確かに駅の方に走った筈なのに

どこまで走ったか分からなくなっていた

(ここどこ…)

私はその場で立ち尽くした…











< 9 / 23 >

この作品をシェア

pagetop