ねぇ、顔を見せてよ
2階はモノトーンの部屋だった
所々に赤い小物が置かれていて
とてもモダン…

促されて先にシャワーを借り
紗由理が浴びている間
リビングを何気なく眺めると

1つだけ、大きな青い空の下に立つ樹が描かれた絵が
壁に掛けられているのに気付いた

他には青色がない

吸い込まれそうな青空が続く空に大きな樹が
力強く立っていて
それを眺めているだけで元気になれそうだった

絵の具…ではなさそう
ペンキで描かれているようだ

「綺麗な青空…」

「そうなのよね。ソレ、私が見える唯一の青なの」

「え?」

意味がわからなくて聞き返すと
紗由理さんは濡れた髪で
笑ってドライヤーを私に手渡しながら話してくれた


「んー、私の目はね『青』が見えないの
でもその絵を描いた人の青だけが見えるのよ」

とても愛おしそうに絵を眺める紗由理さん

「不思議ですね…どなたの作品なんですか?」

「フフ私の恋人、よ」

(恋人さん…)

素敵な絵を描く人なんだ…

「紅子ちゃんの目も青いんでしょ?残念だなぁ
私には綺麗なグレーにしか見えなくて」

急に紗由理さんが呟いたのでびっくりする


「あ、いや…どちらかといえばグレーです…
でもなぜ青いって?」

見えないはずだし、私は話していない

「私には青がグレーに見えるの。だから
大抵の日本人の目は茶色だからそれは見える。
グレーに見えるのはグレーの瞳か青い瞳だけなのよ」

(なるほど)

「何代か前にロシアの血が入っているらしくて
グレーがかったブルーです…伏見くんはキレイって言ってくれて…あ…」

思わず伏見くんの名前が飛び出して私は口をつくんだ

「伏見くん、相当紅子ちゃんに惚れてると思うんだけどなぁ。そういえば連絡ないの?伏見くんから」

「あ、私…着信拒否してたから…」

「あらあら…解除してご覧なさいな」

慌てて解除してみると

LINEもメールも着信も

「うわ…」

「すごい数でしょ?…ふふふ」

紗由理さんは嬉そうに呟いた

「はい…」

「電源は入れてたのよね?」

「はい、地図をみるために…」

紗由理さんは指を顎に当てて考え事をする仕草をした

「じゃあそろそろかな」

「?」

「ふふ…」

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