ねぇ、顔を見せてよ
自信を持って
紗由理さんの言葉の意味が分からなくて
首を捻っていると

スマートフォンが鳴り出した

「ほら、来た」

発信者を見ると伏見巧…伏見くんだ

「…ふ、伏見くんです…どうしよう…」

私がすがるように紗由理さんを見ると

「出てみたら?」

紗由理さんは私に大丈夫よと頷いた

「は…はい…」

『紅子…やっと出たー!!』

電話から焦った伏見くんの声がした

「うん…」

『今、迎えに来た…ねえ、出て来て。
つーか、紅子なんでパン屋に居るの?』

「は?」

「(どうしたの紅子ちゃん…)」

小声で紗由理さんが私に耳打ちしたので
一旦ミュートにすると紗由理さんに言う

「なんでパン屋に居るの?って
…近くにいるみたいで…」

「あー、どれどれ…」

紗由理さんはカーテンをそーっと開けて下を覗いた

「ふふふ、来てるね…伏見くん」

「え?!なんで?なんで分かったんでしょうか?」

紗由理さんは可笑しそうに笑ってる

「とにかく、裏口に回って貰って?今出るからって」

「は、はい」

私は伏見くんにそう告げると紗由理さんを見上げると
紗由理さんはニヤリと笑った

何か思い付いたいたずらっ子のようだ

「先に私出ようか?」

「でも…」

「大丈夫、悪いようにはしないから!
紅子ちゃんここに居てね」

紗由理さんは返事を聞く前に
素早くパーカーを羽織って下へ降りていく


私は仕方なくソワソワしながら
ソファで穿いていたズボンの膝の辺りを
くしゃくしゃと触りながら待っていた


暫くしてトントンと足音が響いた
紗由理さんが上がってきたのだろう

(伏見くん、どうしたのかな…)

「お帰りなさいさ…」

「紅子!」

「えっ?!」

部屋に入ってきたのは伏見くんで

伏見くんは私を見るなり
ものすごい勢いで私を抱き締めた

「あぁぁぁ、ふ、ふ、伏見くん、あの」

「なんで出てっちゃうの!」

伏見くんの爽やかな香りが私の身体を緩める

「だって…彼女さん来てたから…」

「はいー?オレの可愛い彼女は紅子でしょうよ…」

伏見くんは私のおでこをペチンと叩くフリをして口を尖らす

「え……でも」

「あのねぇ……もしかしてアイツのこと?」

「アイツ…」

そんな親密なの……

「あれはオレの姉貴!不本意だけど顔似てると思わなかった?」

伏見くんは少し困ったように呟いた

「すごく美人だなって…」

「んなアホな、紅子の方がずーっと美人だし、可愛いし!自信もってよ!!オレは貴女が好きなんだってば」

「伏見くん…」

好きだって伏見くんが言ってくれて
私は嬉しくて私は伏見くんの首に抱きついた

「わ、私も大好き!!」








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