ねぇ、顔を見せてよ

イイモノ堂

数日後、今度は終業時間後に会社のエントランスで山多に会った

「あ!伏見くん、お疲れ様です!」

「おぉ、お疲れ」

暗幕がものすごいスピードで近付いてきたので思わず仰け反る

「あ、あの伏見くん!…イイモノ堂では眼鏡作ってないって言われちゃいました」

「あぁ、そうかもね。」

(だから、特別なんだって)

「騙したんですか?」

暗幕がゆらりと揺れる

「はぁ?なんでオレがワザワザお前を騙すんだよ」

ちょっとムッとして低い声で言い返すと
山多はびくっと小動物みたいに震えた

(おもしれぇ…)

「すみ…ません。確かにそうですよね…
私なんかを騙しても伏見くんにメリットないですものね。」

先程の勢いはどこへやら山多はしゅんと萎んでいる

(そうだ…)

イイコトを思い付き、オレは山多に言った

「お前、これから暇?」

「暇ではありませんよ?お家に帰りますから…はい、お家で掃除したりやることが沢山あります」

(それ、予定ないんだから暇だろ?)

「じゃ、来いよ」

「は?え?伏見くん?」

ズルズルと山多を引き摺り会社の外に出るとタクシーを止めた

「ホレ、入って」

「え!」

有無を言わさず車に押し込めると

「すみません、ここまでお願いします」

運転手にカードを見せて車を出してもらう

隣の暗幕山多はプルプルと震えている
背が小さく、細い手足がプルプルと震える様子は

(…ハムスターみてぇ)

ハムスターのようだった

目的に着くと暗幕ハムスター山多をさっさと引き摺るように降ろし、白い倉庫のような建物に誘った

「ここ…は?」

まだ訳がわからず
震える山多の腕を掴んだままオレは入り口で声を掛けた

「…居るんだろー!あけろー」

すると暫くしてから
金髪をぽりぽり掻きながら…河野くんが出てきた
相変わらず目付きが悪い…

「んだよっフッシー…今、絵描いてんだよ…ってこちらの小動物は?」

河野くんは目を擦ってからプルプルと震える山多に近付いたから、山多はヒィと小さく叫ぶように息を吸った


「小動物…あははは。オレの同期の山多、あんたのファンらしいよ」

すると、山多はハッと気付いたらしくガバッとオレに振り向いた

「え?もしかして?!」

「そう、コレが河野岳…んでオレの友達」

山多は唇をうわぁと開けて息を吸ったかと思えば次の瞬間

「きょえー!!よく、見せて!見たい!!」

叫びながら山多は眼鏡を外し、指で暗幕を避けて河野さんに近付いた

(え?!)

長い前髪の後ろから出てきたのは

…青みがかったグレーの真ん丸の大きな目に通った鼻筋


「おぉ!美女じゃん!!」

「本物だー!!河野岳!!!うわっ感激です」

すっかり暗幕を捲り上げた山多は会社とは別人だった…

(なんてこった…)
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