愛すべき、藤井。
「だ、だって!ビックリして……頭真っ白だもん」
「……ったく、」
「てか、やめてよ!急に抱きしめるとか!心臓壊れるかと思った」
「バカ、今から抱きしめるぞ?なんて前振りして抱きしめる方がこっちはよっぽど恥ずかしいんだよ!」
「知るか!私には心の準備ってもんがあんの!」
お互い譲らず言い合う私たちに「ちょっと、2人とも」と、うめの声が聞こえてきて、フッと我に返れば、
「いつまで抱き合ったまま痴話喧嘩してんのよ」
呆れたように私たちを見つめる冷めた眼差しのうめ姐さんと、ニヤニヤと口元に含み笑いを浮かべたクラスメイトたちが私たちを見ていたことを思い出した。
途端、再び恥ずかしさが込み上げてきて、慌てて離れようと藤井の胸を軽く押した。
「もう、藤井のバカ」
「はぁ?俺的にかなり頑張ったっつーのに」
頑張るところ違うし!
お前はその有り余った鈍ちん精神を叩き直すことを頑張れ!!鈍感、この鈍感野郎!!
「いやー!でも、本当に良かったぞ藤井!本番も今の感じで行こう!フィナーレに相応しい!!」
「はぁ?無理無理!」
「伊藤も、本当に藤井にときめいてるかのような見事な演技っぷりだったな」
「ぐっ、」
……いや、先生。
それは演技じゃないんです……とは言えるはずもなく。
複雑な顔で固まった私を、さぞおかしそうに隣でクスクス笑ううめの声を聞きながら、明日の文化祭が何だか憂鬱なものへと変わっていった。