愛すべき、藤井。
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「夏乃」
「んー?」
「俺も一緒に帰る」
「え?」
放課後、いよいよ明日に控えた文化祭に向けて最後の練習を終えた私は、今日もまた校門で待ってるであろう立花くんの元へと向かうつもりで教室を出た。
そんな私を呼び止めた藤井が、
「だから、俺も一緒に帰るって」
まさか、こんなこと言い出すとは思っていなかったから、一瞬目を見開いた私に「なんだよ」と少し不貞腐れたご様子の藤井。
「いや、別に?いいよ、一緒に帰ってやっても」
「クソ偉そうで腹立つ」
「寂しくなっちゃったか、ついに」
「はぁ?寂しくなるわけねぇだろ、俺を誰だと思ってんだよ」
「じゃがいも食べると幸せ感じる藤井くん」
「……なんだ、それ」
「知らぬが仏だよ、藤井……ぶふっ」
「は??マジでなんだよ!バカにしてんだろ完璧!!」
まだ藤井と帰らなくなって、たったの3日しか経ってないのに、どうしてこんなにも懐かしい気持ちになるのかな。
階段を駆け下りて、昇降口までの廊下を藤井と歩く。
それだけの事が、私にはやっぱり特別で。
自分で自分の意思の弱さに呆れるけれど、もう無理して藤井を諦めるのは辞めよう……なんて思う。