七瀬クンとの恋愛事情

マンションの前に停車したタクシーの中で、
わざわざ遠回りしてもらったのに、ここまでのタクシー代を受け取ってもらえなかった

それどころか今日私、一銭も財布からお金が出ていない

「…すみません、ご馳走さまです」

深々と頭を下げながら、
恥ずかしさと申し訳なさで、すっかり酔いが覚めてしまった


後部座席の窓を開けて顔を出す課長に、
ほぼ90度に頭を下げる

車窓から伸ばした課長の大きな手のひらが、そのまま私の頭をクシャクシャと撫でながら


「ごめんな」


「………え、あ」

言われた瞬間、さっきのキスが頭をよぎって、ハッキリ声が出てこない


「よ………酔ってたんですよね、課長」

「んっ、少し酔ってたな」

顔を上げられない私は、
すっかり課長のペースに引きづられっぱなしで、どうしたらいいのかの答えが出ない


撫でられた頭から課長の手がそのまま止まる

「倫ちゃんが酔ってたから、それに付け込んだんだ………だけどな、俺は…」

「わ、わ私もっ、今日はちょっと弱ってました。
だから…………だからごめんなさい」

頭を下げたまま私がそう言うと、乗せていた手を引きながら小さい溜め息が聞こえた

「じゃ」

「お疲れ様でした」

頭は上げられず、
そのままタクシーを見送った




「何?あれ………」

後ろからかけられたその低い声に、激しく肩がビクッと上がった


振り向けば、案の定マンションの階段から降りてくる七瀬くん
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