七瀬クンとの恋愛事情
「え、……覚えてない、なんて言ったの?」
話の本質に入る前に七瀬くんが一度ペットボトルの水をクィッと口に含むと、彼を見上げていた私の視線は、自然とその上がった喉仏に目がいった
そして、ペットボトルを持った反対の手でその口角を拭う
そんな男性的な彼の仕草に、身体が一瞬ゾクリッと心臓だけ膨らんだような感覚に襲われ
一息ついたところで、話の続きをし始める七瀬くんからパッと目を逸らし膝を強く抱えた
ま、また……ナニ考えてるんだ、私はっ!
「その時、『松原さん大丈夫ですか?』って声を掛けたら『松原さんじゃなくてぇ、倫子さんっでしょ?』ってそう言われたから、
『じゃあ、これからそう呼びますね』っていったら……」
「…うん」
「『内緒でね』って」
私がそうやっていたと言って、口に人差し指を立てた七瀬くん
拾ってくれたタクシーに私と私を送ってくれる脇谷くんが乗り込む前、七瀬くんと私にそんなやり取りがあったらしい
「………本当にそれ、私が言ったの?」
聞いてて、思わず絶句した
「可愛くて、とても6歳年上先輩上司には思えなかったですよ」
「う…………」
私の頭の上で、口元を押さえて笑う彼に、何だか小馬鹿にされたみたいで、思わず口を尖らせた
とにかく、酔っ払いの私が彼にその呼び方を強要した訳だ