七瀬クンとの恋愛事情
当然、仕事は昼間に進まなかった業務の残り
七瀬くんに手伝ってもらえる範囲を振りわけた分、早く終った
さぁ帰りましょうと、帰り仕度をした七瀬くんが私のことを待っている状態だ
まだ豐田さんの問題が解決してない限り帰りは送ると言い張る七瀬くん
これはもしかして昨晩での義理立てか?
ただやっぱり気不味いから
「きっと………昨日今日だから大丈夫よ。それなりに防犯グッズも持ってるし、ほらっ」
いつか実家で買ってみた防犯ベルと催涙スプレーを今日は持参している
「これ、どこに入れて置くんですか?」
出して見せたそれらを、ジッと見つめる七瀬くん
「え、鞄の中だけど………?」
「鞄取られたらダメじゃないですか?それにベル鳴って誰が助けにくるんですか?」
「う…………」
でも、
豐田さんの事は私だけの問題だ
これから先、同情されて彼の時間を拘束する訳にはいかない
「よっ、予定があるのよ、悪いけど………」
勿論予定なんてないが、なんとなく急いだ様子を見せながら帰社体勢でエレベーターに向かう
「予定って?帰り遅くなるんですか?」
頭の真上からそう声が落ちて、私が押そうとしたエレベーターのボタンを目の前で、長い指が後ろから先行して押してきた
それくらい近い距離にいる七瀬くんから身体をズラすように引いて、思わず彼を牽制した
「なんで、そんな事キミには関係ないでしょ」
これ以上意味の分からないおかしな状態になる訳にはいかない
「やっぱり、なんか怒ってる?」
「………違う、怒ってる訳じゃなくて」
君が一体何を考えているのか分からないんだってば………
二人っきりのエレベーターの中で、お互い噛み合わない会話が、1階についてピタリと止まる