Real Emotion
8 厄介なオトコたち

約束の時間ギリギリに滑り込んだ先は久野のオフィスだった。



「10分前集合が信条の君が時間ちょうどとは。珍しいね」



そう静かに微笑んでゆったりとソファに寛ぐこの男性が
打ち合わせの相手なのだろうか?
久野とは違ったタイプの、男性にしては華奢で色白で
中性的な美男子。それもかなりの。
もう!男のクセになんでこんなにキレイなの?とやっかみと
女性としての立場の無さに深いため息が出てしまった。


「待たせたか?悪いな。取り込んでいたもので」


答えた久野は、言葉とは裏腹に悪びれる様子など微塵もなく
私の肩を抱き寄せた。


ちょっとちょっと。
その台詞に、この素振りは在らぬ誤解を招くでしょう?!
やめた方がよくない?という思いを込めて送った視線に気づいた久野は
抱いていた手で私の肩をトントンと軽く叩いてから手を下ろした。


「なんだ。言ってくれたら日を改めたのに」
「いや、そうもいかないだろう。お前だって忙しい身だ」
「なんの。愛しい君の為ならば例えこの身が忙殺されてしまおうとも尽くすよ?」
「どうせなら忙殺される前に尽くしてくれ」
「は~もう!君って人は相変わらず可愛げがないね」
「そんなものなくて結構。本題に入るぞ」
「はいはい」



気安いのか辛辣なのか分からない調子のままに打ち合わせに入った男たちは
ビジネスライクな雰囲気を最後まで漂わせることなく
始終リラックスした様子だった。小一時間ほどで仕事を終えた。
その間、私は彼らの話をBGMにして、久野の机上に積み上げられていた
書類の仕分けとファイリングをせっせとこなした。


事務と雑務を担当していた女性が先週から産休に入ったそうで
一週間分の仕事が山積みのままだった。
何が何処にあってどうなっているのかわからなくて困る、と
眉間に皺を寄せた久野の困惑もわからないではないが
これは完全にこのオフィスの仕事だ。
ウチの社と関係のない仕事を私にさせるなんて明らかに職権乱用だと
抗議の一つもしたいところだけれど・・・
こんな風に久野のオフィスで彼の仕事の一端に触れていると
また別の一面が見えてきそうで悪くない。
現に今、久野と親しげで遠慮のない会話を交わすこの男性がそうだ。



「お見知りおきを」



そう微笑んで右手を差し出したこの人は冴島啓太と言って
久野とは中学生からの親友でIT関連の仕事をしている傍ら
フリーのカメラマンをしていると紹介された。



「違うよ!ヒデ。何度言ったら分かるのかな。
カメラ業の傍らにITの仕事してるんだってば」
「そういう事はカメラの腕一本で食べていけるようになってから言うんだな」
「ひっどいなあ」
「事実を言ったまでだ」
「君さ、本音とたて前って言葉、知ってる?」
「何だ、たて前で話して欲しいのか?」
「時と場合によっては」



そう言って冴島は私と視線を合わせた。



「特に女性の前では、気を利かせて欲しいよ」



ね、と小首を傾げてウインクした冴島の
カッコいいと可愛いをない交ぜにしたような表情に思わず鼓動が跳ねた。



「ITなんて言われるより、アーティストだと紹介してもらいたいよ。ロマンテッィクだろ?」
「そういうものか?」
「そうなの!女性はね、夢を追う少年のような気持ちを持った大人の男にロマンを感じるの!」

ね、カーノジョと冴島の視線がこちらに向いた。

「え?あぁ そう・・・なのかなあ?」

まさか話を振られるとは思っていなかった私は曖昧に答えるしかなかった。
そんな私を見て久野は笑いを堪えながら言った。


「彼女の前で気取っても無駄みたいだぞ」
「そんなの、やってみなきゃわからないよ?ね、カノジョ?」
「・・・はぁ」



「冴島」と嗜める口調で久野が冴島を呼んだその時、携帯の呼び出し音がなりだして
久野は「悪い」と小さく呟いて私達から少し距離を置いて通話を始めた。
それとは逆ににじり寄るように私との距離をつめた冴島は私に椅子を勧め
自分も私の向かいに腰を下ろした。


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