ヒミツにふれて、ふれさせて。
「…あ、あの…珠…」
「ごめんなさい、めご」
耐えきれない空気を破ろうと、わたしの方から話しかけた。なのに、その言葉に被さるような形で、珠理はわたしに頭を下げた。
さらりとした茶色の髪が、流れるように下を向く。
「え……?」
「ごめんなさい。1週間前…、ひどいこと言った。そして避けてた。アンタはアタシのこと、心配してくれていたのに」
「…っ」
申し訳なさそうに、苦しそうな顔をしながら、紡がれていくその言葉。それを見て、わたしも苦しくなった。
…だって、違うのに。珠理は悪くなんか、ないのに。
「アンタが言った通り、サユリから電話が入ってたの。近海からも聞いたとは思うけど、この時期になると、今住んでいるアメリカの方から帰国するの。でも、今年は少し、早かったみたいで…」
「……」
話を聞いて行くと、ちょうど珠理の誕生日の夜に、サユリさんから留守電が入っていたようだった。
…全然、気づかなかったよ。
「…でも、アタシは、サユリとは極力話したくなくて。だから避けてたの。でも、それでも鳴り続ける着信を、どうすることもできなくて、イライラしてた」
申し訳なさそうな声から、静かな、低い声に変わった。…珠理がいつも、“男の人” になった時に出す声と似ている。
…でも、今、珠理は少しだけ本当のことを教えてくれた。珠理が持っているヒミツに、少しだけ触れてくれた。
やっぱり、珠理は、サユリさんのことを、避けていたんだ。
「………珠理」
だったら、もう、伝えるしかない。さっき、瀬名と一緒に導き出したわたしの気持ちを、ちゃんと伝えるしかない。
こんな風になってまで、わたしに謝らなくちゃと考えてくれていた珠理に、わたしが言ってあげられることは、ひとつしかないよ。