ヒミツにふれて、ふれさせて。
「—— 近海はね、アタシが家から飛び出して、夜1人で歩いていた時に、アタシを見つけてくれたの。習い事の帰りで、近海のお母さんの車に乗っていたわ」
———…え?
懐かしそうに写真を見る珠理。でも、今は確かに、珠理はまたひとつヒミツをこぼしていた。
「……珠理、家出したの…?」
わたしは、それをすかさず、すくっていく。
「…そう。でも、この頃が初めての家出だったの。小学校4年生の時だったと思う。この時は、まだ家に、オトーサンもいて」
「………っ」
…少しずつ、ゆっくり、だけど、確実に紡がれていく、珠理の言葉。
それは、珠理が初めて明かしてくれる、小さい頃からの珠理だけのヒミツ。
「…アタシは、サユリとその “オトーサン” の間に生まれたらしいわ。サユリはもともとアメリカの方で生まれて育っていたみたいなんだけれどね。仕事で日本に来た時に、オトーサンに会って」
「……」
「…でも、オトーサンには、もうひとつ家庭があったから、結婚はしていなくって。でも、よくあの人は家にいたの。サユリのところに、会いに来ていた」
「…」
…何も、言えなかった。
珠理の口から出てくる、たくさんのヒミツに、わたしは黙って聞いてあげることしか出来なくて。
ギュッと、手のひらを握りしめる。
「——でも、程なくして、見せつけられることになったの」
「…」
「……サユリが、オトーサンに、暴力を振るわれるところ」
「………っ!」
…ハッとした。心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
思わず、ビクッと、身体が動いたと思う。
「毎日毎日、すごかったわ。アタシはまだ幼い子どもだったから、どうして殴られているのかも分からなかったけれど…。サユリが泣いて、謝って…それでも、拳を振りかざす男の姿を見ていると、たまらなくなって…」
「…っ」
「ある日、家を出たの。…その時にたまたま会ったのが、近海だった」
…珠理は、わたしの身体を、ギュッと強く抱きしめながら、言った。