副社長のいきなり求婚宣言!?
「で、でも……」


 誰のために、何のために描けばいいのかがわからない。

 もちろん、お客様のため。

 夢を形にしようと思っているひとつの家族のために、描けばいいということはわかっているけれど……

 そこに自分の夢を卑しく重ねていた私に、描く資格なんかない。


 それに社内コンペは、そう簡単にはいかない。

 何もないところから、自分でコンセプトを生み出し、それを実現するギリギリのところまでをすべて一人で考えないといけない。

 今の私には、夢の対象となる明確なものがなければ、描くことができない。

 それに気づいたから、……私を捨てた人の元から逃げたんだ。


「あの男のことでも引きずっているのか?」


 遠慮も何もない冷めた声が、潤んでいた瞳を一瞬で干上がらせる。

 逃れようのない図星に、せっかく仄かな温かさに触れた胸が、またキリキリと刺すような痛みに凍えた。
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