副社長のいきなり求婚宣言!?
*


「お前、相変わらず動揺しすぎ」


 副社長室のダークブラウンの扉を背に、ずるりと足を崩した私を支える超絶イケメンが笑った。


「何想像したんだ? 朝からエっロい顔して」

「ち、違い、ます……そんなんじゃ……」


 意地悪なことを言いながらも、副社長は優しく目を細めている。

 ここへ入った途端から奪われた口唇は、すでに濡れて火照っていて、意地悪への反論は、説得力のない弱々しさだ。


「さあ昨日の続き、始めるぞ」


 副社長が言うのは、PCでの製図のことだ。

 わかっているのに、また重ねられる口唇が昨夜の甘い時間を思い出させ、別のことに頭がのぼせ上がる。

 でもそれは仕方ないことだ。

 今朝大勢の人に埋もれる私のことを、副社長は遠い場所からでも見つけてくれていたんだから。

 
 副社長は、どうして私を見つけられたの?

 何度も私に触れてくれる理由が知りたいよ。


 だけど、聞けないの。……怖いもの。

 もしかしたら、もう隣にいることも叶わなくなるかもしれないから。


 だからこそ今は、精一杯ありったけの想いを込めて画を描くの。

 今この瞬間だけでも見られている夢を、永遠に色褪せることのないよう心に刻むために。



.
< 86 / 104 >

この作品をシェア

pagetop