副社長のいきなり求婚宣言!?

*


 誰もいない三十七階フロア。

 非常灯しかない暗がりの中、不思議と不気味さは感じない。

 階下ではまだ晩餐に賑わっているし、それに、ステージ上で握らされたメモ紙に、副社長からのメッセージがあったから。


 “二十時、いつもの場所で”


 他の誰が見ても絶対にわからないであろう、二人だけの秘密の合言葉に、胸が熱くなる。


 突き当たりにある社長室よりも、ひとつ手前。

 重厚なダークブラウンの扉を、緊張か高揚かに震える手でノックすると、中からすかさず応答があった。


 扉を押し開こうとした途端に、自動ドアのごとく開かれた副社長室から零れる光。

 その中に、吸い込まれるように腕を引っ張られた。

 瞬く暇もなく視界がグレーに染まる。

 一筋見えたライトグレーの光沢は、……高そうなネクタイだ。


「久しぶりだな、……まどか」


 温かなものにくっついた耳に、直接聞こえる声。

 強く抱き締められた腕の中で、「会いたかった」と言われたのは幻聴だったんだろうか。

 ふわふわとした心地に、やっぱりこれは夢だったのかもしれないと、一度ゆっくり瞬いてから顔を上げた。


「ちゃんとおめかしして来たじゃないか」


 目尻を下げて微笑んでくれる超絶イケメンがたしかにそこにいて、今まで溜め込んでいたのものが一気に噴き出してきた。
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