ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
「葵さん」
「大内さん、大丈夫。でも今日はもう帰りますね。ごめんなさい」
ナツメの撮影が終わるまで残っていようと思ったが、さすがにこれは無理だ。
顔は笑顔を作っているが、心がギシギシと悲鳴を上げている。
かつての婚約者に笑顔を作るだけで、精いっぱいだった自分を情けなく思いながら、椅子から立ち上がると、葵は猫のようにするりと、ドアの外へと出て行った。
足が重い。
十メートルほど先にあるエレベーターが死ぬほど遠く感じた。
それでもなんとかボタンを押して、乗り込むと同時に、背後からまるで弾丸のような速さで、大きな塊が飛び込んで来た。
「待ってくれ!」
「なっ……」
閉まりかけたドアに体をねじ込みながら、追いかけてきたのは蒼佑で。
葵はそれを見て、絶句した。
蒼佑は振り返りながら、最上階のボタンを手のひらを叩きつけるようにして押す。
エレベーターの扉は閉まり、どんどん上昇していく。
これでは逃げようがない。
葵はエレベーターの隅に体を押し込めて、息を飲んだ。