ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 こんな時でも紳士の振る舞いがつい出てくるのだろうか。
 葵は泣きたくなるような笑いたくなるような、不思議な気持ちになる。

「……なにも聞きたくないの。口を開かないで」

 葵は首を振る。

 当然、ハンカチは受け取らなかった。

 本当はこのまま気を失いたいくらいだったが、この男の前でそんな醜態が晒せるものかと、葵は必死に自分を奮い立たせる。

 蒼佑の声は甘やかなバリトンで、美しくて上品な低音だ。
 昔からずっと彼の声が好きだった。
 まるで楽器のようだと、昔と同じことを思い、葵は唇をギュッとかみしめる。

 ボーン、と音が鳴って、エレベーターの扉が開く。
 どうしゃら最上階の八階に着いたらしい。

「あなたひとりで降りてください」

 理不尽な申し出かもしれないが、

「――わかった」

 と、蒼佑はうなずいた。彼が降りると同時に、手を伸ばして一階を押した。

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