ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「――お待たせしました」

 仕方なく葵が声を掛けると、それまでどこか憂鬱そうに窓の外を眺めていた蒼佑が、顔を上げ、パッと笑顔になった。

「葵」
「――」

 葵が無言になったのを見て、少し困ったように蒼佑が視線をそらした。

「急に来て、すまなかった」
「いえ。とんでもありません」

 葵はきっぱりと答える。

 そしてこれは仕事だと、何度も自分に言い聞かせながら、にっこりと笑顔を作った。


 結局蒼佑は、秋用のジャケットをつくるという名目で、いくつか生地を選んだ。
 予算に上限はないと言われたので、これぞというものを勧めたし、最終的には間島と年配のマネージャーが対応してくれたのでいいのだが、なんとなく胸にモヤモヤしたものが残っていた。

「では、採寸は来週にでも伺います」

 気が付けばもう閉店時間だ。
 蒼佑はそうさらりと言って、ソファーから立ち上がった。

「――椎名さん」

 間島がそっと、葵の背中を指でつつく。
 見送れという合図だ。

< 47 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop