ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
「それでもしかして、スーツの一着や二着、あつらえてって頼まれた?」
そう思いたくないが、ナツメの性格を考えれば、そのくらい平気で言いそうである。
「話の流れでそういうことは言われたけど、別に彼が本気で言ったわけじゃないってことはわかっているつもりだ」
「――そう。でも……ごめんなさい」
まだ生地を選んだだけだが、まるで野菜でも買うかのような気安さで、今後、百万円単位の支払いをさせてしまうのだ。確かに蒼佑はHFの御曹司で、お金に困ることなど絶対にないとわかっているが、やはり葵としては、いい気分ではなかった。
けれど、蒼佑はかすかに笑って首を振る。
「別にジャケットが欲しくないわけじゃない。必要なものだし。どこで買っても同じなら、葵に会う口実として利用するだけだ」
「――そう」
葵はうなずきながら、じっと蒼佑を見つめる。
望まぬ再会の場で、葵はこの男から逃げた。逃げ切ったと思ったのに、こうやってすぐに彼は葵の前に、姿を現した。
弟とつながりを持ち、職場を知られてしまった今、逃げようにも逃げられない。
(それこそ、私が仕事をやめて、ナツメと離れ離れで一人暮らしでもしない限り、難しい気がする……)