ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「普通に、昔の男よね?」
「――大昔です」

 さすがに許嫁だったとは言いづらく、曖昧に誤魔化す。

「なんていうか……最低な別れ方をして、二度と会いたくないと思っていたところで、再会したというか……そんな感じで。でも、売り場に来られたら無下にできないというか……いろいろ考えて、パンクしそうなんです」
「はっ、は~ん、なるほどね」

 渉相手だと、なぜか会話の垣根が下がる。
 気が付けば、誰にも言えなかった悩みが、するると口をついて出ていた。

「てか、彼氏がいるとか言っちゃえばよかったのに」

 渉がお味噌汁を丁寧に飲みながら、さらりと答える。

「あ」

 葵は、ハッとした。

(そっか……その手があったんだ……!)

「……考えもつきませんでした」

 なにしろ今まで、恋人を作ろうなどと思ったことがない葵には、まったく想像がつかない言い訳だった。

「失敗した……そっか、最初にそう言えばよかったんだ……」

 葵は深くため息をつき、嘆きながら、両手で顔を覆う。


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