ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「お茶だって言ってたのに……」

 葵の言葉に、渉はウフフと笑って、肩を竦める。

「あたしにはこれがお茶なのよ」

 そしてグラスを軽く唇につけて、「ああ、おいしい。生き返る~」と目を細める。
 グラスの中身は当然、お茶ではなく、ウイスキーだ。

 ここは会社から歩いて五分程度の、雑居ビルの中にあるバーである。看板もないので、店名もわからない。
 昔ながらの雑居ビルを、階段で二階に上り、廊下の突き当りにひっそりと、誰にも知られたくないような雰囲気で存在している、不思議なバーだった。

 渉は常連らしく、カウンターの中にいる五十代男性に軽く手を挙げて、奥のテーブル席へ座る。店内にはジャズが流れ、クラシックな調度品が品よく並べられている。

 テーブルも椅子も、年季が入って、なかなかにいい雰囲気だ。そして自分たち以外には若いカップルがカウンターにいるだけで、静かなものだった。

 葵はちびちびと、二杯目の白ワインベースのイチゴのカクテルを飲みながら、丸いテーブルの向こうで、足を組み座っている蒼佑を見つめる。

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