ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

(ああ、やっちゃった……!)

 ちなみに蒼佑の上着は、葵が履いている、量販店で買ったスカートが、余裕で二十枚は買える値段だ。

 紳士服フロアで働くものとして、これはどうなのだろうとひどく落ち込んだが、体は葵のいうことを聞いてくれない。
 一度座り込んでしまうと、立てる気がしなくなってしまったのだった。



 それから無言の時間がしばらく流れる。

 時計の音が聞こえるはずもないのだが、なぜか秒針が刻む音が聞こえる気がした。
 腕時計に目を落とすと、一時間後と言われて五分も経っていない。
 信じられないが、まだまだ救出は遠いようだ。

 葵は膝を抱えたまま、腕を組み、葵の隣に立って一点を見つめる蒼佑を見あげる。
 立ちっぱなしでは疲れてしまうだろう。

「――座らないの?」

 すると蒼佑は、少し驚いたように目を見開いた。

「隣に座ってもいいのか」
「それは別に……変なことしないなら……」

 さすがに床にじかに座れとは言えない。

(そもそも、この人の上着をお尻に敷いてるのは私だし……)

 葵はそうやって自分に言い聞かせながら、抱えた膝を引き寄せ、隣に座れる場所を作った。

「どうぞ」


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