ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
静かだけれど、どこか緊張感のある空気がエレベーターの中に満ちている。
(一時間。一時間経ったら、ここから出られる。ひとりになれる……)
葵は何度も自分に言い聞かせる。
そうしたらまたいつもの日々が帰ってくるはずだ。
心をきつく揺さぶられない、乱されない、ナツメと過ごす穏やかな日々がやってくる。
いつかナツメも自分の側からいなくなってしまうだろうが、そうしたら今度は自分一人だけの小さな部屋を借りて、のんびり暮らせばいい。なんなら、海外で暮らしている両親のもとに行ってもいい。
どこで暮しても一緒だ。自分は自分……心の平穏を保てる場所が自分の居場所であればいい――。
「葵」
そこで静寂を破るように、蒼佑が口を開いた。
葵はふと我に返り、顔をあげる。
すると隣でこぶし一つほどの距離を開けて座っている蒼佑が、宙を見つめてどこか神妙な顔をしていた。
「八年前のことを話したい」
「――え?」
突然何を言い出すのだろう。