ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 そう、そうだ。
 初めてキスした日のことを、葵だって当然忘れてなんかいない。

 それまで楽しそうに笑っていたはずの蒼佑は、葵が怒る顔をじっと見つめて、急に真面目な顔になって――。

(そう……今みたいに……グレーの瞳をキラキラと輝かせながら、顔を近づけてきて――)

 触れるだけのキスを交わしたのだ。

「葵……」

 蒼佑が名前を呼ぶ。

 過去と現実が錯綜(さくそう)する。

 その一瞬、葵の中の柔らかい心が、彼に恋をしていたあの日に戻ったような気がした。

 ただ隣にいるだけで幸せだった、あの日の頃に。
 肩が触れるだけでドキドキした、あの恋心が懐かしい。

 だが――。目の前にいる彼は、昔の彼ではなく。
 自分も年を重ねて、大人になっていて。
 現実の今、エレベーターの中で、お互いの吐息が触れるくらい顔が近づいることに気が付いて、葵はハッと我に返った。

 そして無言でうつむき、唇をかみしめる。

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