お茶にしましょうか
一つ、嫌な筋書きが、頭に浮かぶ。
「ふーん、赤くなっちゃって。可愛いね」
「え…」
彼女は、更に赤くなっている。
俺は、更に青くなる。
しかし、俺はこの瞬間まで、忘れていた。
彼女は、常に斜め上を行く深海魚であることを。
「そ、そんな、ありがとうございます。お世辞でも照れてしまいます。
しかし、そうおっしゃる、あなたの方が可愛らしいお顔立ちされていますよ。私は、そう思います。皆さんも、いかが思われますか?」
屋台の中に居る野球部や、組の人たちは次々にうろたえ、戸惑っていた。
しかし、チームメイトが一人呟くと、徐々に盛り上がっていた。
「確かにっ!」
「あはは!萩原ちゃん最高!!」
「そいつ、確かに可愛い顔してるわ!!」
とうとう俺の隣で、たこ焼きを一緒に焼いていた奴まで同意をし出す。
俺もその場の乗りで、口を開こうとしたが、慌ててそれを止めた。
奴が既に、俺の隣まで迫っていたからだ。
「へえ。江波まで、そんなこと言えるんだ?」
一瞬にして、背筋が凍った。
「お前、何が目的であの子に話しかけ──
「焦った?」
「なっ?!」
「あの子は、新たな食えないタイプだね」
俺はこいつの罠にまんまと、のせられた。
本当に複雑で、利口な奴である。
全く、末恐ろしい奴だ。
決して、口に出しては言えないが。
俺が黙っていると、奴はいつもの気怠そうな声で言った。
「もう何でもいいからさ、早く焼いちゃってよ。2人分ね」
「は?2人分?」
「うん。急ぎで」
言われるがままに、焼く。
焼いたものを、奴がパックに詰める。
作業は滞りなく、直ぐに済んだ。