センチメンタル
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「あ、やっとわかった!よーし、行くぞ~」
彼の声でハッとした。
振り返ると携帯を再度眺めながら、彼はシートベルトを確かめている。
秋の心地よい風が車内に入り込み、二人の髪を揺らした。
「道わかったんだね、良かったー」
「とにかく綺麗な迷路みたいなここを抜ければ、国道に出るみたい。そうなればナビも動くはず。目的地までもうちょっとだぞー!」
「いえーい!」
2時間前にご飯を食べてはいるのだけれど、きっと彼は既にお腹をすかせているはず。私は用意しておいたおやつをカバンから取り出して、袋を開けた。ドーナツやクッキーなんかよりも、ポテトチップスや揚げ菓子が好きな彼。体に悪いとはわかりつつも、炭酸ジュースと一緒にスナックを食べる時の彼の笑顔が好きで、中々やめてとは言えないのだ。
今日も彼は、運転席にはコーラを用意していた。
『俺が炭酸好きだから、つい・・・』
武田君の声が、耳の中に響いた。
私は開けた窓から視線を外へと飛ばす。
今はない遊園地、たくさんの絶叫マシンにクラシックな建物たち。いたるところで楽しそうな声が聞こえていた、あの日の昼下がり。
乗ったものが怖かったのか泣く小さな子供。それをあやす母親の声。楽しそうにはしゃぐカップル。友達同士で来て常に走って移動していた子供達。係員の大きな声、音楽、軋む機械。
びっくりするくらい長い時間喋った私達。帰りは疲れたのか、武田君は電車で座ると眠ってしまったようだったし、私は真っ暗な空の下で明りがついた家々を眺めていた。