センチメンタル


 武田君は歩き出していた。彼の向こう、ゲートの遠くには最期の夕日が山の稜線に消えかかっている。頭の上の空はほとんど群青色で、かなり夜に進出されているのに、向こう側だけはまだ鮮やかなオレンジや黄色が残っていた。

 上空の風は強いみたいで雲がどんどん流されていて、ところどころに真っ赤な夕日の光が顔を出しては消えていく。光線が何度も目をさした。

 あ、キラキラだ・・・。

 山の端にその綺麗で鮮やかな色が吸い込まれてしまうまで、私はぼけっと突っ立って眺めてしまっていた。

 武田君が遠くで振り返ってこちらを見ている。大丈夫~?って声が聞こえてくる。

「・・・あ、大丈夫!」


 結局、言えなかった。

 最後にもう一回、何かに乗らない?って。

 もうちょっとだけ、ここに居ない?って。

 私は急いで武田君に向かって走り出し、少し後ろについて歩き出した。走っただけのせいじゃない、いつもより大きな鼓動が聞こえていた。

 トクン、トクン、トクン。

 何となく、顔は赤かったように思う。





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