センチメンタル

「え、ココアちゃんが逃げ出して、怪我をしたの?」

 私は携帯電話に向かって素っ頓狂な声を上げる。少し離れた場所で同じように携帯を耳にひっつけている武田君が、ちらりとこちらを見た。

「大丈夫なの、ココアちゃん?」

 私は彼に背中をむけて、携帯電話を抱え込むようにして電話の向こうに問いかける。電話の相手は小学校からの友達である、アユミ。アユミの家が結構前から飼っているパピヨンの名前がココアで、そのパピヨンが今朝、玄関のドアが少し開けたままになっているのに気がついて、そこから逃げ出してしまったらしい。それに気が付いて家族が探しにいくと、用水路に落ちてしまって足を怪我していたんだとか。

『うん大丈夫~。血が出てて皆でパニックなったけどね~。まだ病院なんだよね、だからごめん、今日はあたし行けないや~』

「え」

『ほんとごめん!みんなにも謝ってくれる?とにかくココアを連れて帰って様子みたいしさ』

「・・・あ、うん。でも、あの・・・」

『じゃあね~、あたし居ないけど、折角だからマミは皆と楽しんでよ~!ごめんね、また明日!』

 そのままで何も言い返せない内に、電話は切れてしまった。

 私はそのままで少し途方にくれてしまった。だって・・・皆って・・・。

「河口さん」

 その時後から呼びかけられて、思わずその場で小さく飛び上がる。パッと振り向くと、ちょっと驚いた顔をした武田君がいた。


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